あけてくれ!


「あけてくれ!」(ウルトラQ第28話より)

制作国:日本 1967年(初放送) 監督:円谷一







オリジナルの「ウルトラQ」はモノクロ作品ですが、画像は45周年記念に制作された総天色バージョンです。



現実世界に疲れた男の葛藤を着眼に描いた本作は、怪獣も宇宙人も登場せず、内容が内面的で難解過ぎるという理由からリアルタイムでは放送されず、再放送で初めて作品が放送されたという経緯があります。






国民的な特撮ヒーロー「ウルトラマン」。日本を代表する特撮番組の先駆けであり、「怪獣」という言葉をTVからお茶の間に浸透させたエポックメイキング的な作品だが、さらに遡ればその怪獣作品の流れを作ったのは前番組の「ウルトラQ」である。しかし「ウルトラQ」は放送局の意向によって結果的に怪獣番組として制作された経緯があり、もともと企画段階では「アンバランス」というタイトルで「トワイライトゾーン」や「アウターリミッツ」のようなオムニバス形式のサスペンス・スリラーを目指していた。

この「アンバランス」の企画は後に「恐怖劇場アンバランス」というタイトルで再び持ち上がり、青島幸男をストーリーテラーにすわえたオムニバスドラマとなってフジテレビで放送される。このドラマ形式が後にフジテレビを代表するドラマシリーズ「世にも奇妙な物語」に継承されていくわけだが、「ウルトラマン」と「世にも奇妙な物語」の全くジャンルの違う2つの番組が元を調べると同じ企画にたどり着くというのも面白い。

余計な前置きが長くなったが、今回取り上げる「あけてくれ!」は元々その「アンバランス」として制作された話であり、従来のウルトラ作品のように怪獣も出なければ宇宙からの脅威に侵略されたりする話でもない。現実世界に辟易した一人の中年男の病みが生み出す現実逃避の世界を、異次元というSF設定と当時先端の特撮技術で描いた社会風刺ドラマだ。

あらすじは非常にシンプルでわかりやすい。現実世界に嫌気がさした中年サラリーマン・沢村は何もかも放り捨ててしまいたい、何ものにも束縛されない自由な世界に逃げ出したいと考えていた。すると彼はいつの間にか見知らぬ電車の中に居た。そこには数人の男女が居て、彼らもまた現実世界に嫌気がさしてこの電車に乗っているという。電車の目的地は誰も知らない美しい幸せな世界とのことだが、現実世界に未練のあった沢村は「嫌だ!俺は降りる!あけてくれ!」と叫び、途中で降ろされ現実世界へと戻ってくる。

しかし現実世界で待っているのは忙しい社会にわずらわしい人間関係。家庭では威圧的な女房に罵られ、娘には愛想尽かされ、会社では嫌味な上司に無能扱いされる始末。ふたたび現実世界に嫌気がさした沢村は夜空を走るに電車に叫ぶ。「連れてってくれ!どこへでも連れてってくれ!」と。

この話のテーマは現実逃避だが、この作品の魅力はその誰しもが共感できるテーマにある。おそらく生きていて現実に嫌気がさすことのない人間はいないだろう。全てを放り投げてどこかへ旅に行ってしまいたいという気持ちは誰もが一度くらいは抱くものではないかと思うが、なかには永遠の旅とも云える自殺を選択する者もいる。

この話の主人公・沢村は決して要領の良い人間ではないだろう。目の前に広がる空想的な電車の世界と、苦痛の連続である現実世界に右往左往する彼の姿は哀愁を漂わせ、幸せなものではないが人間味を感じさせて、とても魅力的なキャラクターである。嫌味な上司に冷え切った家庭。実際嫌だろうなぁとそこに感情移入しちゃうんだよね(;´д`)

ウルトラQの中でも異色の作品で、ベストの話ではないけど、非常に心に残る作品だった。疲れたときに見るとなんだか心が洗われる気がするんだけど、これは僕自身も病んでるからなのかな(^ω^;)

もしあなたに理解ある異性や、暖かいご家庭がお有りでしたら、夜の電車はくれぐれも気をつけてお乗りください。


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